銀行業:大手信託銀行における外国送金の ISO 20022移行

目次

はじめに

現在、金融業界では「ISO 20022」という金融通信メッセージにおける国際標準規格への移行という、大きな転換期を迎えています。これは、国際送金の標準であるSWIFT電文を従来のMTフォーマットから、より情報量の多いMX(XML)フォーマットへと刷新するプロジェクトです。

この移行は単なるシステムのアップグレードに留まらず、銀行業務の根幹に関わる大規模な変革です。しかし、その規模と複雑さゆえに、ユーザー部門とIT部門の連携不足や、プロジェクト管理の難易度が高くなるケースが発生しています。本記事では、弊社が国内大手信託銀行様において、2024年4月から2025年12月までの約20ヶ月間にわたり実施した、外国送金システム移行プロジェクトの支援事例をご紹介します。

プロジェクト背景とクライアントが抱えていた課題

本企業様の市場決済部(ユーザー部門)では、SWIFT電文のMTからMXへの変更対応という、極めて重要度の高い「外国送金のISO 20022移行プロジェクト」が進行していました。しかし、プロジェクトが推進するにつれ、ユーザー部門側では以下のような複数の課題に直面していました。

1. プロジェクト管理者の不足と情報の散乱

最大の問題は、ユーザー部門側で全体の作業進捗を管理できる担当者が不足していたことです。進捗管理資料やタスクが各所に散乱してしまい、全体を俯瞰して状況を把握することが困難になっていました。

2. IT部門との連携・推進力の不足

システムを構築するIT部門と、実際に業務を行うユーザー部門との間で、円滑な意思疎通ができていませんでした。ユーザー側の意見を整理し、IT部門との調整を主導できる人材が不足しており、コミュニケーションの煩雑さがプロジェクトの遅延リスクとなっていました。

3. テスト(UAT)および研修計画の遅れ

新システムへの移行において不可欠な「ユーザー受け入れテスト(UAT)」や、行員向けの「トレーニング」の重要性は理解されていたものの、その実行計画を立案・準備するノウハウやリソースが不足していました。具体的にどのようなテストケースを作成すべきか、100名を超えるユーザーへの研修をどう進めるべきかという指針が定まっていない状況でした。

アプローチとプロジェクト推進のポイント

弊社は、ユーザー部門側のPMO(Project Management Office)として参画し、現場に寄り添いながら「可視化」と「情報連携」を徹底するアプローチをとりました。

統合管理による状況の「可視化」

まず着手したのは、散乱していたスケジュールと課題管理表の集約です。プロジェクト全体を包含したロードマップとWBSを作成し、プロジェクトの全体像を一目で把握できる環境を構築しました。これにより、課題を一元管理し、優先順位に基づいた的確な意思決定をサポートしました。

ユーザー部門の代弁者としてIT部門との連携

弊社メンバーがIT部門とのミーティングにユーザー部門側の代弁者として参加しました。事前にユーザー側の意見を集約・整理した上でIT部門と調整を行い、その結果を迅速にユーザー部門内に共有・周知するパイプ役を担いました。IT部門側とのコミュニケーション窓口を一本化することで、情報の齟齬を無くし、意思疎通のスピードを向上させました。

実践的なUAT・トレーニング支援

UATにおいては、単に計画を立てるだけでなく、テストシナリオやケースの「パイロット版」を弊社で作成しました。具体的な作業を示すことで、現場担当者の負荷を軽減し、効率的なテスト実施を実現しました。また、100名超のユーザーを対象とした研修についても、業務スケジュールを考慮した現実的な計画を立案し、準備から実施中のフォローまでを一貫してサポートしました。

システム構成とプロジェクトの全体像

本プロジェクトの核心は、SWIFTネットワークを介した他行・他金融機関との取引において、MX電文(XMLフォーマット)を正しく処理できる体制を整えることにあります。

システム関連図の全体像

本企業様の「取引管理システム」から出力される取引データが、ISO 20022規格に基づいたMX電文(XML)としてSWIFTネットワークへ送信され、他行と取引が行われる構成です。弊社はこのシステムのユーザー側における、進捗・課題管理、IT部門との調整、およびUAT・トレーニングといった広範なPMO・ユーザーサポート業務を担当しました。

20ヶ月にわたる全体スケジュール

プロジェクトは2024年4月から開始され、2025年末のリリースに向けて以下のフェーズで進行しました。

  • 2024年: 実装および単体テストを実施しながら、並行して段階的な移行準備を推進。
  • 2025年前半: 結合テスト、システムテスト、そして本プロジェクトの山場であるユーザー受け入れテスト(UAT)を順次実施。
  • 2025年中盤: 100名規模のユーザーを対象とした研修・トレーニングを集中的に実施。
  • 2025年末: 最終的な移行作業を行い、MX電文による新運用を無事開始。

最終的な成果

弊社参画により、本企業様は金融インフラにおけるプロジェクトを、以下の通り完遂させることができました。

1. 予定通りのテスト・移行・リリースの達成

IT部門と密接に連携し、移行・更改プロジェクトを管理した結果、遅滞なくプロジェクトを完遂し、無事にMX電文を利用した取引を開始することができました。

2. 安定稼働と障害ゼロの実現

システムリリース以降、MX電文を利用した取引において、大きなシステム障害は発生していません。事前の詳細なUAT計画と、パイロット版を用いた質の高いテストケース作成が、この安定稼働に大きく寄与しました。

3. 100名超のユーザーの円滑な順応

最も懸念されていた、業務フローの変化に伴う現場の混乱も最小限に抑えられました。100名を超える業務ユーザーが、新システムの利用開始直後から大きな戸惑いを見せることなく日々の業務に従事できています。これは、現場の業務実態に沿ったトレーニング計画と丁寧な実施サポートの成果と言えます。

おわりに

金融機関におけるシステム移行は、失敗が許されない極めてプレッシャーの大きいプロジェクトです。特に今回のISO 20022対応のようなグローバルスタンダードへの準拠は、高い専門性と緻密なプロジェクト管理が求められます。

本事例においては、ユーザー部門側に立った専門的なPMOが介在することで、組織間の壁を取り払い、現場レベルでの連携を着実に行うことでゴールへと導くことができました。

弊社では、金融・決済分野をはじめとする大規模プロジェクトのPMO支援・ユーザーサポートを行っております。システム移行における進捗管理や現場の巻き込みにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。弊社は、これからもお客様のビジネスの根幹を支えるIT変革のパートナーとして、伴走型の支援を続けてまいります。

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